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なんてったって社会不適合者物語

それは脱出か共栄か、そして創造のヒントまとめとしての坂口恭平『現実脱出論』

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もしかしたら『独立国家のつくりかた』の方が有名なのかもしれない。こっちは読んでいない。何か坂口恭平の本を読もうと思って、新しいものを選んだ、それだけだった。

現実脱出論 (講談社現代新書)

現実脱出論 (講談社現代新書)

この本は、色々な理由により読むのが大変であった。その理由の1つは非常に恥ずかしいもので、まさに今その要因となっているものを排除しようと積極的に動いているのだけれど。

その理由とは、"How to慣れ"だ。この本は現実から脱出するためのハウツーが書かれているものではない。一方で最近目にする/目にしやすい文章っていうのが「◯◯◯のための5つの方法」とかそんなのが多くて、気づかない間にそういう文章に沈んでしまっている自分がいた。もしかしたら、そこに気付けたこともこの本を読んで得たものだったのかもしれない。

そんなパーソナルな話は置いておいて、中身について。

ハウツー本ではないとかそういう理由だけでなく、正直この本は読むのがしんどかった。いや、楽しんで読んだけれどね。

まったく知らない場所を歩"かされている"感に近いものがあった。この感覚は第1章から第5章まで読んでいる間、ずっと持っていた。多分こういう風に感じていたのは、上記セクションが坂口恭平の現実と脱出先についてがひたすら語られているからなのかも。坂口恭平の著作って読んだことがなくて、バックグラウンドや人となりを全く知らないままに読んだから、「ああそうなんだね」と中々思えないでいた。そんな感じ。

けれども最終章である第6章、"だから人は創造し続ける"は凄くドキドキしながら読んでいた。絶対に言わないけれど、「とりあえず第6章だけでも読め!!」って感じ。

ここは坂口恭平の考えにシンパシーを抱く自分であったからなのかもしれないが。

この章で坂口恭平は、肉体を生かす世界としての現実と対となる空間づくりとしての"思考"について記している。思考は現実と同じような空間(思考の巣)を作る、そして思考を現実に投影するものが創造なのだと。その創造が、現実において他者への伝達方法となる。

創造は現実に則っていてはできない。もっと自由に、現実のルールや肉体器官から離れることで可能になる。

創造っていうのは別に絵を書いたり音楽を作ったり・・・みたいなステレオタイプなものだけでなく、もっと当たり前に自分達が普段行っていることでもある。己の思考っていう現実とは別の空間があって、それを伝達するために何かに投影する。創造っていうのが、単になにか現実にただ形あるものを作ることではなく、何かを伝達するためにあるのだ。

坂口恭平が本書の中で"思考の巣"と呼んでいるもの。本来の意味とは違うのかもしれないが、自分は"記憶の宮殿"という言葉を使って理解していた。"記憶の宮殿"は『ハンニバル』の中でハンニバル・レクターが用いている。それは彼の思考・記憶で構築された宮殿で、中の移動は時間を超えている。

ハンニバル〈上〉 (新潮文庫)

ハンニバル〈上〉 (新潮文庫)

ハンニバル〈下〉 (新潮文庫)

ハンニバル〈下〉 (新潮文庫)

"思考の巣"でも"記憶の宮殿"でもなんでもいい。要はそういった現実とは別の空間、ただ一人、自分のみが入り込めるその空間とのアクセスが不明瞭になると、凄く気分が悪い。何もしたくないし、何も話したくないし話せない。そういう時って自分がものすごく現実に捕らえられているのだと思う。

例えばアーティストの世界観と呼ばれるものって、きっと彼らの思考の巣なんだよね。その伝達手段が絵であり音楽であり。確かに好きなミュージシャンて、何となく現実ではない世界が見える。

逆に自分が"思考の巣"を現実に投影し、人に伝達する、となるとそこでまた悩むところではある。

凄く雑に適当に言うと自分はコミュ障なキャラなのだが、結局のところ"思考の巣"にアクセスできたとして、それを適切に投影する術がわからないことが多々ある。創造するものがないのか、そのすべを持たないのか・・・それも中々難しい。ただ、そういう状況を知覚しているのだから、上手く現実と"思考の巣"を行き来できるように意識して試行錯誤していける気はする。その時に、どんな創造を自分がするのかはわからないが。

これは悲観的な意味での脱出ではなく、脱出というとちょっと仰々しいけれども、もっとライトに考えていいんじゃないかと思っている。確かに僕らはこの肉体を維持するために、そして他者と伝達しあうために現実で生きていく。けれども、そうじゃない空間で、肉体とは違うものを適切に放ち生活したっていい。全てを現実に押しとどめる必要なんて無い。押しとどめないとって、悲観することもない。それは当たり前にやっていることだし、やっていいことなんだというのが多分、坂口恭平が言いたいこと。

現実脱出論 (講談社現代新書)

現実脱出論 (講談社現代新書)

独立国家のつくりかた (講談社現代新書)

独立国家のつくりかた (講談社現代新書)

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